データセット・コネクトーム

BANC (Brain And Nerve Cord)

Harvard Medical School (Lee & Wilson labs), Princeton University (Murthy lab), Harvard (Drugowitsch lab)

ハーバード医学部のLee研・Wilson研とプリンストン大学Murthy研などが中心となり、成体メスのショウジョウバエ1個体を4nm解像度の連続切片EMで撮像し、脳と腹部神経索を同じ個体でひとつながりにシナプス解像度で再構成したコネクトーム(同一個体で両方を扱うのはこれが初)。READMEによると約188,000ニューロン・約1億9,900万の予測シナプスを含み、解析コード(主にR)とデータはいずれもCC BY 4.0で公開。論文は2026年にNature誌にオープンアクセスで掲載された。

公式サイト ↗

BANC (Brain And Nerve Cord)htem/BANC-project README (CC BY 4.0)

#whole-cns#female#brain-and-vnc#nature-2026#r

確認した出典

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ツール・ライブラリ

flyconn

@moiz-lakkadkutta

MaleCNS v1.0・FlyWire v630/v783・hemibrain・MANC・BANC を、チェックサム付きのオフラインデータ層ひとつの背後にまとめ、その上に符号付き疎グラフを構築する Python ツールキット。重みの閾値を変えたときの経路安定性という形で不確実性を伝播させ、公開結果と照合済みのクロスプラットフォーム LIF シミュレータを持ち、YAML の仕様から実験を回して出典と引用付きのレポートを出す。対照実験は既定で走る。README は本プロジェクトを pre-alpha と呼び、神経伝達物質の同定は予測であり、シミュレーション出力はすべてモデルの予測だと明言している。

身体モデル・物理

FlyGym + BANC v888 bridge

@ArisLiWind

NeLy-EPFL の FlyGym をフォークし、歩行制御に BANC v888 のコネクトームを接続したもの。身体モデル側の事例は FlyWire か MaleCNS が大半なので、BANC を使う例は珍しい。DNpe053 などの下行ニューロンをその局所回路ごとシミュレートし、発火率でトライポッド パターン生成器の振幅を調節する。もう一方のスクリプトは物理演算の 0.1 ms ごとに閉ループを回し、FlyGym の関節角が 18 個の脚感覚ニューロンを駆動、BANC 由来の 50 ニューロン LIF 網が STDP でオンライン更新され、運動ニューロン群のスパイクが脚ごとのゲインになる。結合の健全性は自前の検証スクリプトで重なりと自己ループを確認している。

ツール・ライブラリ

cerebro (cerebro-mosca)

Allan Matheus Silva Santos

デモではなく、公開された全脳モデルの監査。numba 実装が Brian2 の発火を発火率相関 0.999 で再現しつつ約 1000 倍速く、そのおかげで検査が現実的になる。左 il3LN6 という 1 個のニューロンが抑制性なのに興奮性として入っており、砂糖への応答が 377 から 8,323 ニューロンへ膨らむ。匂い 1 つでケニヨン細胞の 66% が光るが、実際のハエでは 5〜10%。FlyWire と BANC は個体間で最大 ρ=0.32 しか一致せず、BANC の神経伝達物質コンセンサス列は 68 細胞型で自分のニューロンと矛盾する。3 件とも上流に報告済み。

ツール・ライブラリ

FLIEGE

IT-EXPRESS Bayern

配線図から行動までのあいだにある段階を、反証も含めて公開しながら検討しているドイツの公開研究。内容はコネクトームの監査(ニューロン数・シナプス数、シナプス検出器ごとの差、優先的に再検討すべき候補)、感覚や身体の対象に紐づけた細胞同定(出典とバージョン付き)、公開済みの中枢パターン発生器モデルを 8 つの対照条件で再計算したもの、そして身体・6 本脚の関節・ニューロン骨格・翼のロール試験台をブラウザで触れる実験室群。うち 1 つは BANC から選んだ部分グラフを通して前脚の関節のフィードバックループを閉じる。README は、完全な再構成は作業中であり、自由飛行や自律的な生活は実証されていないと明記している。

デモ・ゲーム

FlyArena

NKprime (primaryNK)

BANC v888/v3 のコネクトーム(188,508 ニューロン、13,620,865 の有向ペア)から独立した 2 つの神経状態を Direct3D 12 上で内部 1 ms 刻みで計算し、その低レベル出力で剣・盾・移動のアクチュエータを動かす Windows 用の戦闘サンドボックス。attack() や parry() のような台本化された動作は無く、命中・ブロック・パリィ・回避は物理的な位置関係とタイミングから判定される。学習が触るのは小さな運動読み出し層だけで、BANC の結合ペアは変更しない。作者は AI を多用して開発したと明記しており、署名なしの実行ファイルが Defender のクラウド検査で検知される(誤検知と見ている)ため、現在はソース ZIP のみを配布している。

シミュレーション

NeuroFly

NeuroFly (neuroflyapp)

Windows のデスクトップで動くハエ。行動はアニメーションではなく、測定された配線の上の leaky integrate-and-fire モデルから出てくる。逃避・旋回・温度・味覚・触角グルーミングに FlyWire FAFB v783 の 7,270 ニューロンと符号付き 784,219 結合、歩行に MaleCNS v1.0 の腹髄 1,045 ニューロンを使う。神経の刻みは 1 ms、感覚から身体へのループは 120 Hz で回り、どの行動にもそれを起こした因果の鎖が付く。細胞型単位の抑制・活性化ができ、文献由来の 10 プロトコルは乱数種から再現できる。検証ファイルには再現できなかったベンチマークと、著者が取り下げた主張の記録が載っている。

ツール・ライブラリ

BioReservoir

IG Digital Lab (igdigitallab)

公開されたコネクトームを「固定のリザバー」として扱う実験基盤。配線を読み込み、スパイキングネットワークとして走らせ、人間側の入力で駆動して応答だけを読み出す(脳自体は学習させない)。価値は手続きにある。設問と乱数種はハッシュを先に公開してから走らせ、各実験は必ず「同じグラフを配線し直したもの」「脳なしの基準」「コイン投げ」の 3 つの対照と比べる。リポジトリにはローダー・LIF 中核・採点・テストが入っており、雄雌 2 匹の脳を使う最初の実験はまだ設計段階。

シミュレーション

Droso

SebSilent

判断の中核に BANC v888(脳+神経索)コネクトームの構造的な切り出しを据えた自律エージェント。公開テーブルから読み込んだ 12,867 ニューロンと符号付き 173,294 シナプスで、全体約 188,000 ニューロンの部分集合にあたる。テキストはハッシュで 3,840 個中 16 個のケニオン細胞を立てる疎な符号になり、10 サブステップ伝播したあと 85 個の MBON が 12 の行動プールに勝者総取りで投票する。学習するのはケニオン細胞→MBON の 2,983 シナプスだけで、三要因ドーパミン則で更新される。計画・端末実行・記憶は切り出しの外側の別モジュール。次数を合わせたランダム対照グラフも生成でき、配線についての主張を検証できる。

シミュレーション

fly-voca

Injae Yun (@Injae-Yun)

FlyWire FAFB v783 と BANC v888 の配線から、空腹・渇き・覚醒・求愛・防御・味覚・操舵などの 8 軸でハエの内部状態を読もうとし、その状態がなぜシミュレーションの中で持続しないかを記録した韓国語のリポジトリ。状態細胞は刺激終了後 250 ms で基底に戻るが、これは欠陥ではなく観測と一致する。持続を担うのは下流であり、ループ利得・全脳スキャン・身体ループの 3 方向とも、一様 LIF と単一の遅い層というこのモデル族では同じ数字が出ないと述べる。条件間でシードを揃え、反証も結果として残す方針を明記している。

ツール・ライブラリ

connectome-kit

aujurd22

大規模コネクトーム向けの解析ツールキット。約 17 万ニューロン・重複を除いた有向接続 1,360 万本のメス全中枢神経系データセットで構築・検証されている。読み込みと ID 対応、次数を保つ帰無モデル、行列累乗を避けた有向リングのサンプリング濃縮、スペクトルギャップとモジュール構造、神経伝達物質で層別した位相、有効情報、GPU 上の位相同期といったモジュールを持つ。各モジュールに対応するランダム対照が同梱され、濃縮の結果を必ず突き合わせられる。ローダーは任意のエッジリストを受け取れるので、特定データセット専用ではない。

解説・報道

Муха в машине (fly-brain-explainer)

cosmiksoul

バイラル動画の中で、どこが生物学で、どこが工学で、どこがミームなのかを切り分けるロシア語の対話型解説。まず MaleCNS と BANC のコネクトームについて、切片から graph をどう作るのか、その graph に何が入っていないのかを説明し、次に LIF シミュレーションが実際に何を動かしているのかを見せ、最後にサンドボックスへ進む。そこでは小さなハエ脳がスロットマシンのレバーを引き、読者と数当てゲームで対戦する。どちらのゲームにも「配線をシャッフルする」ボタンがあり、著者はこれをバイラル動画に欠けている対照だと位置づけている。

シミュレーション

flybench (opifor)

opifor

Shiu らの leaky integrate-and-fire モデルを独立に再実装し、オスとメスの脳を同じシミュレータ・同じ環境に載せるための実験台。MaleCNS のオス、FlyWire FAFB のメス、BANC のメスを公開リリースから読み込む(データは同梱しない)。既発表のメス脳のベンチマークを再現したうえで、全実験を事前登録し、登録文をハッシュ化して記録に埋め込み、成立しなかった結果も同じ形で報告する。成立:オスの歌の指令系列、交尾済み状態による pC1・vpoDN の抑制。不成立:メスの聴覚に入れた求愛歌が vpoDN に届かない。

デモ・ゲーム

Virtual Fly (Project Genesis)

ritwikj2

誰も見ていなくても 3D の瓶の中で生き続ける生き物。脳は BANC コネクトームの 143,921 ニューロン・1,230 万シナプスをスパイキングニューロンとして走らせたもの。入力は 12×6 ピクセルの画像、触角 2 本の匂い濃度、脚ごとの接触、関節角、熱、空腹、痛みだけで、言語モデルも「空腹なら餌へ」のようなルールも一切ない。状態は 2 分ごとにディスクへ保存され、再起動しても続きから動く。記録では 19 回の生涯・55 時間分を生き、体は 18 回死んで脳だけが引き継がれ、危険への接近を避ける割合が約 5 割から約 8 割に上がったとされる。

シミュレーション

BrainLab

@Pronexsteam

実行のたびに外部の基準(既発表モデルか独立した実験)と突き合わせて合否を付けてから結果として扱う、単一 GPU の LIF シミュレータ。面白いのは否定的な結果のほう。Shiu et al. 2024 の砂糖→MN9 味覚実験を 3 つの成虫コネクトームで走らせると、FAFB v783 で 76.7 Hz、MaleCNS v0.9 で 68.9 Hz、BANC v888 で 17.8 Hz と大きくばらつく。エッジ閾値のせいではないことは対照で潰してあり(FAFB は閾値 1 でも 70.0 Hz)、原因は元データのシナプス数に帰している。つまりこの差はハエではなく 3 つのデータセットについての結果。自前の FAFB の値 111 Hz が、公表値 93.27 Hz と手元の Brian2 実行 82.67 Hz より高いことも自ら書いている。

ツール・ライブラリ

VFB Self-Led Learning (NeuroFly 2026)

Virtual Fly Brain team

Virtual Fly Brain が NeuroFly 2026 向けに作ったハンズオン教材を、誰でも自分のペースで進められる 7 セッションの無料教材として公開し直したもの。告知は VFB のニュース欄で 2026 年 9 月 6 日付。ニューロンを探すところから、データセット間をつなぐ話、単一細胞トランスクリプトームの取り込みまで進む。各セッションは 5 通りのやり方で試せる。Python の vfb_connect、reticulate 経由の natverse(R)、自然文で聞くチャット、LLM から叩く MCP エンドポイント、そしてインストール不要の 3D ブラウザ。扱うデータは BANC・male CNS・MANC・視葉。フッターに GPL v2 と明記されている。

シミュレーション

Fruit-fly CNS - live connectome driving a body

@wjb000

約 16.6 万個の male CNS トレース済みニューロンを短期抑圧つきの漏れ積分発火ユニットとしてブラウザで走らせ、運動ニューロンのプールだけで体を動かす。プールが静かになれば体は脱力する。公開ページの既定はクアッドコプタで、NeuroMechFly のモデルはクエリパラメータで切り替える。他の身体化デモと違うのは摂動の道具立てで、コンソールから任意のニューロンを沈黙・増強・切断・入れ替え・遅延・空腹ゲートでき、損傷スイープを回し、BANC を相手に雌雄入れ替えのグラフ移植まで試せる(移植はリポジトリ側のツールで、公開ページには載っていない)。その移植は期待した符号反転が出ず、2 度とも失敗として報告されている。

ツール・ライブラリ

connectome_interpreter

Yijie Yin, University of Cambridge

配線図を回路機能についての検証可能な仮説に変える Python ライブラリ。約 14 万ニューロンの全脳解析でもノート PC や Colab で動く。ニューロン群どうしの多シナプス的な実効結合を符号ありなしで計算し、始点と終点のあいだの実際の部分回路を取り出して描画し、微分可能なコネクトームモデルも提供する。PyPI から導入でき、プレプリントと Colab ノートブックが付属する。

ツール・ライブラリ

coconatfly

Gregory Jefferis (natverse)

主要なハエのコネクトームを共通のインターフェースで扱えるようにする R パッケージ。hemibrain・FlyWire・MANC・FANC・BANC・male CNS・male optic lobe に対して、同じ書き方で結合相手の検索や細胞タイプの比較ができる。Jefferis 氏が開発しており、ライフサイクルは実験段階で API が変わる可能性はあるものの、hemibrain と FlyWire の比較では既に実用されている。

ツール・ライブラリ

connectome_data_prep

Yijie Yin, University of Cambridge

ケンブリッジ大学の Yijie Yin 氏による、公開コネクトームを解析しやすい疎結合行列とメタデータ表に整形するためのノートブック・スクリプト集。flow centrality に基づく軸索・樹状突起の分割処理も含む。対象は成虫の male CNS・BANC・FlyWire/FAFB・hemibrain・MANC に加えて幼虫コネクトームで、Connectome Interpreter で使う経路探索・実効結合解析のベンチマークコードも同梱されている。ライセンスファイルは未設定。

ツール・ライブラリ

Fly Connectome Data Tutorial (SJCABS)

SJCABS winter school (Sven Dorkenwald & Alexander Bates)

サンフアン冬季スクール(Connectomics and Brain Simulation)向けに Sven Dorkenwald と Alexander Bates が作成した教材。データ読み込みから形態解析、直接・間接結合の解析まで、Python と R の両方で段階的に学べる。BANC・FAFB・male CNS・MANC・hemibrain のメタデータを共通スキーマに揃え、公開クラウドバケットで配布しているため、同じノートブックを 5 つのデータセットで使い回せる点が特徴。

ツール・ライブラリ

FlyWire Codex

Princeton Neuroscience Institute

Princeton Neuroscience Institute が開発した Web ベースのコネクトーム閲覧ツール。ソフトのインストールも生データのダウンロードも不要で、ブラウザだけで検索・絞り込み・可視化ができる。FlyWire の FAFB v783(139,255 ニューロン)に加え、BANC v888、Janelia の MANC v1.2.1、オス視葉 MAOL v1.1、male CNS v1.0 も閲覧でき、2026 年初頭時点で登録ユーザーは 6 万人を超えた。コードは murthylab/codex として Apache-2.0 で公開されている。

解説・報道

Wikipedia: Drosophila connectome

Wikipedia (Wikimedia Foundation)

ショウジョウバエのコネクトミクスを一望できるWikipediaの記事。なぜショウジョウバエがモデル生物に選ばれるのかから始まり、3,016ニューロンの幼虫脳、成体のhemibrain、FlyWire、FANC・MANCの神経索、2025年のBANCやオス中枢神経系の全体再構成まで主要データセットを順に解説し、配線構造と行動の関係にも触れている。本文はCC BY-SA 4.0、最終更新は2026年8月11日。